Mozillaの中の人が描く将来像、Firefoxはどこに向かうのか

いまさらながらFirefox Developer Conference 2009 基調講演の内容です。

Mozilla Webブラウザ と コンピューティングの将来像が具体的に見えてくるエキサイティングなものでした。

基調講演1 「JetpackMozilla Labs 最新情報」

Mozilla Labs ユーザエクスペリエンス担当 Aza Raskin (エイザ・ラスキン)


『5つの方向性』
ユーザエクスペリエンスの観点から言えば、今後のFirefoxの進化の方向性は下記の5つ。

  1. アイデンティティ管理
  2. ソーシャル管理
  3. 統合
  4. タスクセントリック
  5. アドオン


つ か み
 Aza :この中に OpenID を使っている人はいるかい?
 会場:(大勢が挙手)
 Aza :君ら おかしいんじゃないか(笑)
 会場:(笑)


1.アイデンティティ管理

  • OpenIDはひどいエクスペリエンス。あれは失敗だ、長いURLなど誰も入力したくなどない。
  • WebブラウザOpenIDを置き換える。良いエクスペリエンスでそれをサポートする。
  • 《補足》具体的なイメージは語られず、私も聞いていて???だったので、想像をたくましくしつつここで補足してみる。
    • Webブラウザアイデンティティ管理を行うというのは、例えば、WebブラウザにログオンするだけでGmailはてなLDRtwitterflickr等々、ネット上のサービスへのログオン処理を適時自動的に行ってくれるといったことかも。(OSにログオンすれば権限や個人設定の適用はOSが行ってくれるように。またこの場合、OpenID同様、サービス側がブラウザのアイデンティティ管理に対応しているという前提が必要になる可能性が高い。)
    • あるいは、WebブラウザにID/PWでログオンすると、いつでも、どこ(屋内/モバイル)でも、どの端末(PC/携帯/その他)からでも、「私のブックマーク」や「私の履歴」が呼び出せる、将来的にはマイアドオンの適用といったものかもしれない。
    • 後者について言えば、Fennec(モバイル向けのMozilla)でこれに近いアイデアが実現される旨の発表もあったことから、そう外れていないはず。
    • また前者にせよ後者にせよ、ネット上のどこかに認証情報が保持され、Webブラウザからの認証処理に応対する必要はあるはず。認証情報を保持、運用するサービス主体は一体誰になるのだろうか? そこまで踏み込んだ説明は今回は行われなかった。


2.ソーシャル管理

  • ソーシャル情報は重要な情報だ。ひとつの会社に依存するブラウザに任せるべきではない。
  • Webブラウザ上でソーシャルな情報に対応する。
  • 《補足》想像をたくましくしつつここで補足
    • ソーシャル情報、つまり、誰と誰が友人関係、どのグループに誰と誰が所属するか といった情報がWebブラウザでサポートされると一体どうなるのか。
    • シンプルなところでは、友人のWebブラウザへのログオン状況(オフライン、モバイル、離席等)をあなたのWebブラウザから確認できるといったプレゼンス機能が考えられる。最近じゃ、あまり流行らない機能だが。
    • あるいは、1.で示したように、どこからでも、どの端末からでも「私のブックマーク」が呼び出せるのであれば、そのブックマークに「プライベート / 友人のみ公開 / 一般公開」といった具合に公開範囲が設定できるのかもしれない。
    • あるいは、どのIDとどのIDが友人関係にあるといったソーシャルな関係をAPIとして外部に提供するのだろうか。オープンソーシャルみたいだな。
    • 前述の通り、Webブラウザアイデンティティ管理するのであれば、その延長にソーシャル管理があるのはある意味で自然な流れとも言える。が、上下のレイヤーとどのように連携するのか、などを含め、最も実現イメージを想像しにくい項目だった。

3.統合

  • たとえば写真データ、こうしたデータの扱いに対して、今のブラウザは良いエクスペリエンスを提供していない。
  • コンピュータでできることは、Webブラウザ上でも楽に扱えるようになる。
  • 《補足》
    • これは分かりやすい。ネイティブOSでしかできなかった H/W寄りの操作も含めて、"全て"がWebブラウザでできるという話。スクリプタブル・ハードウェア、WebOSとかに直結する話だ。


4.タスクセントリック

  • 美味しそうなレシピが日本語で書かれていているページを開いたとする。これを英語圏の人が読むためには、まず該当部分をコピーして、翻訳ページを開いて、ペーストして、翻訳ボタンを押して…。本当にやりたいことは、「レシピを知る」ことだ。そこに到達するために遠回りしすぎなのが今のWeb。
  • "したいこと"に沿ってサービスが提供されるべき。「どのようにすればいいのか」をユーザが一々考えてから操作するのではなく。元ページの内容を知りたい → 翻訳 → 内容を把握といった具合に。
  • 《補足》
    • 示したい方向性はわかるけど…。どなたか解説求む!


5.アドオン

  • 次世代アドオン(?)Jetpack。より簡単に、素早く。少ないコード、強力*1、バージョンアップしてもコード変更の必要なし、セキュア
  • 目を引くところではセキュリティを担保する仕組みの紹介など。
  • ロードマップ:バージョン4以降は現行アドオンに替わりJetpackが主流になる…かもね(状況しだいでは)


所管

  • 「コンピュータでできること」=「ブラウザでできること」という明確なメッセージが示された。興味深い
  • Jetpackをはじめ、アドオン開発へのエンドユーザ参加が強調された。今年のカンファレンスのテーマだから当然だが、"アドオン開発者の多さ"はFirefoxにとってライバルブラウザの追随を許さない最大の強みであるという認識の現われと見た。

基調講演 (2) 「Mozilla: Web の未来を定義する」

Mozilla Corporation エバンジェリズムディレクター Chris Blizzard (クリス・ブリザード)

『3つの進化』
ブラウザの進む道は下記の3つ。

  1. Power
  2. Beauty
  3. Speed

1.Power

  • Webブラウザのパワーアップ。今までできなかったことができるように。
    • ローカルストレージ
    • スクリプタブルハードウェア:ブラウザから利用できるハードウェア。例 カメラを接続すると写真をアップロード可能。
    • リッチメディア:audio、videoやcanvasなど
    • ジオロケーション情報、傾き情報(orientation)、カメラ(camera)

2.Beauty

  • Webブラウザの表示はもっと美しくなっていい。
    • Media Queries:デバイスの状況に応じて表示が最適化される。
    • Downloadable font:ダウンローダブルなフォント。日本やインドのように多様な文字を持つ国で活用してほしい。
    • WebGLWebブラウザで3次元データを扱う。

3.Speed

  • もっとスピードを。
    • Responsive Apps Execution speed
    • Leverage Multi-core

デモ

質疑

  • Q モバイル(Fennec)の取り組み状況は?
    • Fennecの最初のターゲットはNokiaで、実現は年内。
    • 特徴的な機能として、デスクトップ上のFirefoxで開いているタブやヒストリーといった情報が、モバイルで起動しているFennecと同期される といったことも実現している。
    • Nokiaの次はWindows Mobile、続いてAndroidがターゲットとなるだろう。
  • Q iPhoneでのFirefox実現の可能性は?
    • 難しい。Appleは制約が厳しいというのが一番の理由。また、既に完成度の高いブラウザが実装されているという点でも。したがってiPhoneでのFirefoxはまず無理だろう。
    • 一方Androidはと言うと、オープン志向であること、既存環境に改善の余地が大きいこと などから、実現可能性が高い。

所管

  • Webブラウザ上のアプリケーションがNative Appを置き換える、いわゆるWebOS的な話は将来のことと考えていた。
  • だが基調講演を聞き、WebOSを実現するための要素技術は、もう既にテスト実装が始まっていることを実感した。

*1:ブラウザから別のアプリにデータを受け渡したとかしてたっぽい。すごいな